家庭を含む電力小売りの全面自由化で7兆5000億円もの独占市場が開放される。
だが、高まる期待とは裏腹に徐々に厳しい現実が見えてきた。一般的な自由化へのイメージは「幻想」といえるものが多いことが分かってきた。ここでは「新規参入組が急増する」「電気料金が下がる」「再生可能エネルギー電力はお買い得」といった幻想を紹介したい。
経済産業省に届け出た特定規模電気事業者(新電力)は2015年に600社を突破したが、各種のアンケート調査で実際に小売事業に参入すると答える企業は半数に満たない。「とりあえず登録」したケースがあまりにも多い。
全面自由化の16年4月からぶっつけ本番で電力事業に参入するのはリスクがあるため、50キロワット以上の自由化市場で経験を積むのが自然だが、新電力の中で小売りの実績があるのは15年3月時点でわずか67社にとどまる。
そもそも電力ビジネスは薄利多売である。大幅な値下げをする場合は電力会社のコスト構造に抜本的なメスを入れるか、他業種の利益を原資にするしかない。こうした状況から、小売事業に慎重なスタンスをとる企業が多いのが実情だ。
最大の関心である電気料金は、今より競争が働くのだから値下げが進むと考えるのは早計だ。
電気料金は様々な要因で変動する。最大の要因は燃料費だ。東日本大震災以降は原発が停止し、火力用の液化天然ガス(LNG)を大量に輸入したため、電気料金が高騰した。欧州ではいち早く家庭を含む小売の自由化が実施されたが、それ以降、電気料金が上昇傾向にある。
国が普及を後押ししているのだから再エネはお買い得と考えているとしたら、それは誤解だ。
新電力にとって固定価格買い取り制度(FIT)を利用する再エネは貴重な電源だった。FITの再エネ電力を買っても賦課金として需要家から薄く広く費用を回収できたからだ。賦課金の算定根拠は「回避可能費用」という概念で決まる。複雑な仕組みのため詳細を割愛するが、新電力は利益を出しやすかった。
だが、経産省は回避可能費用を日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格に連動させる方針を示した。今後、大手電力や新電力が受け取れる賦課金の額が引き下げられることになる。そうなると、再エネに投資するインセンティブが減少し、規模の小さな新電力は電源とする新電力は小売で厳しい競争を強いられそうだ。結果として再エネは市場への流通が少ない貴重品となり、お買い得とはなりそうもない。
ただし、市場活性化のチャンスはある。
ポイントは、20年ごろの動向だ。まずは原子力発電所がどの程度再稼働しているのか。原発の稼働率が高まれば、供給量が一気に増える。また現在、火力発電所の建設計画が目白押しで、合計で2000万キロワットにも達するとみられる。電力の供給力が高まれば電源不足も解消され、新規参入や値下げの余地が出てくる。
だが、原発の再稼働を見通すのは非常に難しい。また火力は計画の段階で撤回もあり得る。そうなれば、電源不足は解消されにくく、市場の活性化は限定的になる。
[日経産業新聞2015年6月1日付]より出典
電力の自由化、期待する人多いいみたいですね(#^.^#)